哭 なこかい跳 とぼかい』

 

 

哭 なこかい

跳 とぼかい

哭 なこよっか

ひっ跳 とべ

(共通語訳)

泣こうか

跳ぼうか

泣くより

跳んでしまえ

(解説)

 NHKの司馬遼太郎作「翔 とぶがごとく」で有名になった童歌である。鹿児島県人なら大概の人が知っているので、解説の必要ないかも知れないが、薩摩藩制下の郷中 ごじゅう教育で盛んに歌われたものである。
 小学生時代、郷里大隅町の麓(旧武家集落)で「竹の子会」という子ども会組織があり、そこで郷中教育を引き継ぐ教育を受けた。B・B・Sの指導者から、集落の子女である私たちは生活指導を受けた。郷中教育とは武家の子女を対象とした薩摩藩独特の青年団組織による教育である。
 夏休みのある日のこと、当時県の教育委員長をしていた二階堂三郎先生から、集落の公民館に集められて、部屋の前に掲げられた一枚の掲示物を示された。それには、この童歌が筆字で書いてあった。
 先生は、これを大声で範読 はんどくしてから私たちに輪読 りんどくを勧 すすめた。あまり意味もわからないまま輪読したが、今になってこれが、鮮やかに蘇 よみがえってくる。教育というものは結果がでるまで長い時間を要するものである。付け焼き刃でいかないものである。
 この童歌は質実剛健、実践を旨 むねとせよと、教えているのである。そういえば、四、五歳頃のこと、前谷 まえんたんの小川で近所のがき大将に連れられて遊んでいたときのことだが、小川を跳び越えるとき、大将がこの童歌を歌いながら、跳ぶという手本を示してくれた。それから、小川を跳び越える時は、必ずこの歌を歌ってから跳び越えるようになった。私にとっては、懐かしい歌であり、それから数十年近く時が過ぎてしまったが、生きていく上での座右 ざゆうの銘 めいともなっている。
 泣くなら跳んでしまえ。ここに薩摩隼人の気概が込められている。